新価値創造2017のステージ講座私的レポート
新価値創造展2017で、医療に関する講演を私の視点でレポートします
この展示会は、元々中小企業の総合展示であり、今回で13回目となります。Industry&Technology、Health&Welfare、Green&Communityの3つのカテゴリーに分けられており、更にそれぞれのカテゴリーで3から4のジャンヌに細分されています。私の注目するHealth&Welfareに関しては、健康・予防・医療・介護の4つに分けられていました。
ステージでは、「ものづくりxロボットx医療」、「医療xITの最前線」、「産官学の連携による医工ものづくり成功の秘訣」の3つの講演がありました。それぞれのポイントをご紹介します。
ものづくりxロボットx医療
東京大学大学院工学系研究科教授杉田直彦先生によるご講演です。
歯や関節の加工、及び微細手術ロボットを作っています
先生は元々NECのエンジニアでしたが、教育現場に転職され、現在は3つの技術を研究されているそうです。一つはジルコニアセラミクスと言う、歯の材質の加工を研究されています。そして、次は関節の加工技術。3つ目が眼球などの内部を手術するダビンチのようなロボットの研究です。
大学では学生にシンセシスが大切と教えているそうです
現在、4力学(機械・流体・熱・材料)で分析していくのですが、学生に対しては「ものづくりにおいて大切な考え方」、それは、シンセシスだ!と教えているそうです。
Synthesis:合成、総合、統合 と訳されますが、その考え方をご紹介されました。
思考の可視化をする
ものづくりは、まず思いがあり、それを言葉にして、最後に形にします。この思考の流れを目に見える形に落とし込むそうです。
上位の目的がとても大切
ものづくりは設計解を作ることですが、そのときに必ず目的があります。この目的がとても大切なのだそうです。ある設計解があって、そこからその目的は一体何だったのかを考え、そして、その目的を達成する別の解を考えるそうです。つまり、より上位の目的に立ち戻ってから再度解を考えると言うプロセスになります。これを繰り返してより良いものを作るそうです。トヨタの5つの何故ですね。
強い商品を作る事
ものにはその価値、そして価値を実現する機能、機能のベースにある構造この3つの要素を行ったり来たりして、強い商品の開発に務めるそうです。マーケットインだろうが、プロダクトアウトだろうが、このプロセスを繰り返して、強固な商品にするそうです。
医療分野で価値を見いだせるロボットに着目
医療ロボットで成功を収めたダビンチ
医療で活躍しているロボットの代表はダビンチです。その他、Neuro Mate, Rosa, Corprth, 等などロボットは開発されてはいます。しかし、ダビンチ以外はどれも今ひとつブレークしていないそうです。
市場は大きい
多くのロボットがうまくいかないのは、市場がないから?とも考えられます。しかし実際は年間960億円の市場があり、期待度はかなり高いとのことです。では、何故うまくいかないのか?
ダビンチにはキラーアプリが有った
ロボットが便利であることは間違いないのだが、絶対に必要かと言われるとそうでもないようです。しかし、ダビンチの場合は、前立腺の手術はこれがないと駄目!というキラーアプリがあったことがブレークした原因だそうです。
つまり、ものづくりでキラーアプリが何か!ここをよく考えて開発する必要があるそうです。
医療xITx最前線
株式会社メドレーの代表取締役医師 豊田さんのご講演でした。代表取締役社長は瀧口さんという方で、かつての塾講師の仲間だそうです。豊田さんは、開成高校卒東大理Ⅲで、東大の脳外科に勤務されていたそうです。しかし、日本の医療に限界を感じ、何か改革をしなければと一念奮起され、まずは医局を飛び出しマッキンゼーにて修行を積み、その後メドレー社にて、「医療の問題点を解決する」と言う大きな理念のもとに様々な改革を着手されています。
現在は4つの事業を推進しています
メドレー、クリニクス、ジョブメドレー、介護のほんねの4つです。
今回は、メドレーとクリニクスを紹介されました。
http://www.medley.jp/
メドレーは医学辞典
メドレー社には従業員が約180名。そのうち、医師が10名、エンジニアが30名ほどいるそうです。そして、最初の事業は正しい医療情報を提供するメドレー。提携医師数は約600人で、様々な疾病に対しての正しい情報発信をするサイトを作りました。情報としては比較的信憑性の高いwikipediaでも、疾病に関しての内容は約90%が間違えなのだそうです。驚きでした。昨今何を信じてよいやら分からなくなっていますが、まずメドレーなら安心出来ると思われました。そうそう、情報提供はフリーなのですが、正しい医療情報をKDDIやカルテ会社や、NTTなどに提供しているそうです。なるほど、このような収益構造なのですね。
CLINICS
これは遠隔診断です。遠隔診断と聞くと,僻地医療を思い浮かべてしまいますが、既に都内でも数百の施設が活用しているそうです。新六本木クリニックの禁煙外来や、外房こどもクリニックの喘息の子供の沿革診療のビデオを紹介して説明。患者や患者の家族の重要な時間を束縛しない診療、だからこそ、ドロップ・アウトすることが減り、確実に治療に結びつき、医療費削減に効果を発揮する。と言う流れですね。既に日本国内で700施設が採用しているそうです。具体的には、医師から電話が来て、受信すれば診察開始。受信できなければ、時間を置いてまた呼んでもらう。外来待合でちょっとトイレに行っている間に呼ばれる程度の感覚のようです。
遠隔診療の問題点は薬のデリバリー
現在、医療に関してはかなり緩和されてきたのですが、薬の受け渡しに関してはまだまだ法の規制が有り、投薬にタイムラグが生じるとのこと。つい先日まで、目薬程度のネット販売ができなかったのは記憶に新しいかと思いますが、あの時も、控訴控訴で最高裁まで審議を行い、ようやく認可されたもの。でも、医療施設での投薬に関しては、未だに①処方箋は紙で出す。②薬は対面で渡す。ことが義務付けられており、ここがネックで、薬のデリバリーが遅れるそうです。
遠隔診療を行なっている施設が、院内処方をしているのであれば、施設から直接患者あてに薬を送ることができるそうですが、そこにも数日のタイムラグは生じます。今後、これらの点の改革が必要とおっしゃっていました。
産官学連携による医工ものづくり成功の秘訣
鳥取県の事例紹介でした。鳥取大学医学部は医工連携の部署を持ち、県庁も県を挙げての産業として医療を掲げ、そして地場産業が医療のコマッタを解決する。このような仕組みはどの自治体も目指している姿だと思います。しかし、思いの外うまく言っていないのではないでしょうか。鳥取県はこの連携がうまくいっている非常に珍しい事例だと思いました。
何故鳥取県は産学官連携がうまく行っているのか
県の危機感
鳥取県の製造品出荷額が2011年リーマンショック以降、幾つかの負の連鎖により半減してしまった。そんな切羽詰まった状況で、県として何を軸に成長させるかを真剣に考え(何処も真剣ですが)そして、成長産業でもある医療に力を入れることになった。
鳥取大学の改革
鳥取大学は、前病院長の実行力で変貌を遂げたようです。医工連携を強化すべく、組織化し、そこに消化器外科の植木先生を抜擢し、39の部署をスルーして医工連携を推進できる体制を作りました。
しかし、医工連携の部署を作る動きは全国的にも広がっています。都内のある大学病院でも医工連携室が有りました。でも、うまく機能していません。鳥取大学とは何かが違うのか。そのあたりが垣間見られた雑誌を見つけましたので、御覧ください。
参考URL http://www.pref.tottori.lg.jp/secure/761276/klinikos2012autumn.pdf
簡単にまとめると、①鳥取大学は小さい大学だった②医局講座制を崩せた③鳥取は良い地域社会が存続している④魅力的な研修プログラムがある。と言う話しですが、改革しやすい土壌と、改革を受け入れやすい地域性に恵まれたということでしょう。確かに、大きくなりすぎた施設では難しいことかと思われます。
地場産業に対する開かれた医療環境
鳥取大学は医工連携を強化すべく、地場産業に対して実際の手術や機器の使いかたなどを学ぶ場を設けています。このような実践の場を見ることで、メーカーは医師とは異なる視点で色々と発想を巡らせます。そして、それらを相互に共有して、新たなものづくりにつなげています。
今回は、地場産業代表として株式会社ミコトテクノロジーの檜山社長が産官学の連携で生まれた医療シミュレータの開発経緯をご紹介されました。
開発の秘訣はバンドヒットの連続
植木先生はバンドヒットの連続で発明を回すとおっしゃっていました。マーケーットサイズは小さくとも、長いスパンで考えて、それなりの規模にする。産官学の医工連携継続にはとても大切な考え方でしょう。植木先生は、「10年経って振り返った時、鳥取大学と一緒にやってよかったと言って頂ける事を常に考えている」そうです。
私が思った鳥取の成功理由、それはパッション
医療は世界的に見て約8%程度の成長が見込めています。この数字は今の時代ではかなり大きく魅力的に映ります。なので、多くの自治体トップは地場産業を使い医療機器を開発し、世界に打って出ることを描き、それなりに税金を投入しています。
また、機関病院では医工連携質を設け、地場産業のシーズと、偉業の現場のニーズをマッチングさせて、ものを作ることを狙っています。
今まで医療には無関係だった中小企業も、これからは医療だろうと考えて、参入を考えています。
仕組みとしては当然の流れだと思うます。しかし、この仕組を血の通った生きたエコシステムにするにはパッションが必要だと思いました。鳥取県の場合は、県の製造出荷額が半減するという未曾有の危機に直面し、本機で医療への取り組みを考えました。そして、仕組みを作るだけでなく、それがしっかりと機能する所まで考えて対応しました。鳥取大学病院では、植木先生という発明大好きな情熱家が、院長先生の号令の下、39の部署を束ねて医工連携を推進しました。しかも、小さい組織故に動きやすかった。リーダーの植木先生は腰の低い方で、各科からの反発も無かったのでしょう。出世欲は皆無な方(失礼)。そして、発明好きだからこそ、地場産業と真剣に向き合って発明を進める真摯な姿勢と、地場産業が医療に理解を示す為に尽力し、勉強の場を作った事。
どれ一つ取っても難しいことが山積するはずの仕組みが実にスムーズに流れたからこそ成功したのだと思います。
産官学ともパッションを持って挑んだからこそ実現できたのだと思います。
展示会場で、合成写真の展示がありました。ちょっとパロってお戯れで…。
恐縮です。m(_ _)m
(文責:大久保 優)